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選手村マンション「HARUMI FLAG」最高倍率は266倍 人気の訳は?
「ここまでの高倍率は経験したことがないです」
販売担当者がこう漏らすほど応募が殺到したのが、東京・中央区晴海地区にある分譲マンションです。ここは、おととし開かれた東京オリンピック・パラリンピックの選手村の跡地です。最終販売期の最高倍率はなんと266倍に上りました。なぜここまで人気を集めたのでしょうか。
選手村マンションが異例の人気に
この分譲マンション群は、東京・中央区晴海地区の東京オリンピック・パラリンピックの選手村跡地に建ち並んでいます。3方向を海に囲まれた東京湾岸部に広がる土地はなんと13ヘクタールにも及びます。
ここには、おととしの東京大会の時には、高さ14階~18階建ての21棟の宿泊施設でした。
そこに今、新たに1万2000人が住む街「HARUMI FLAG」をつくる再開発が続いています。選手の宿泊施設だった建物は改修され、17棟の分譲マンションと4棟の賃貸マンションに生まれ変わります。
この“選手村マンション”が異例の人気を集めているのです。
販売が始まったのは、大会前の2019年。この第1期の時点では全2690戸のうち600戸が売り出され、1戸あたりの平均倍率は平均2.57倍、最も人気が高い部屋では71倍になりました。
この時点でも、すでに高い人気を集めていましたが、倍率はその後も販売期を重ねるごとに上昇し、最終販売期の第7期では、平均倍率が71.1倍にも上りました。最も人気が高い部屋に至っては、倍率は266倍に達したということです。
こちらはNHKが入手した第7期の部屋ごとの倍率表です。
これを見てみると、最も倍率が低い2階部分の部屋でも35倍、階数が高くなればなるほど倍率が上がり、角部屋はほとんど100倍を超えていました。
なぜここまで人気? 応募した人たちに直撃
現在、都心のマンション価格は高騰が続いています。1億円を超える物件を会社員の世帯が買い求めるケースも増えていると言います。
それでも、この「HARUMI FLAG」のように高倍率になることは異例だそうです。
なぜここまで人気を集めているのでしょうか。
私は2月に開かれた第7期の販売会場を訪ねてみました。会場には、小さな子どもを連れた家族や高齢の夫婦、外国人、さらにスーツを着たビジネスマンまでさまざまな人たちが、次々に申し込みに来ていました。
そこで、申し込みを終えた10人ほどに、購入を希望する理由を聞いたところ、全員が「価格の安さ」を口にしました。
周辺の相場に比べて割安なんですよ。都心3区と言われる中央区でこれだけの価格は中古のマンションでもないです。
新築マンションが欲しくて調べてみると、ここは周りのマンションより2000万円、3000万円単位で安いんです。将来的な資産価値も考えたらその安さが非常に魅力的でした。
絶対的に価格が割安です。同じ条件で中央区だと坪単価が400万円、500万円という時代に、ここは300万円なんです。しかも基本的なマンションは販売期を重ねるごとに値段が上がっていくんですけど、ここはほとんど上げてなくて周りに比べて割安感が出ています。
全員が証言した「割安感」という言葉。
気になって販売価格を調べてみると、最高価格は2億3000万円、最低価格は4990万円でした。
そして最も販売戸数の多い、広さ85平方メートル台の部屋は平均8000万円でした。販売担当者によると、1坪あたりの単価は300万円ほどだということです。
では、同じ中央区内のマンション価格はどうなのか。
民間のシンクタンクによると、去年1年間に販売された選手村マンションを除く新築マンションの平均価格は1億365万円、坪単価は496万円でした。確かに坪単価でみるとだいぶ違います。
さらに、周辺の価格とも比較してみました。すべての条件が同じではないので、単純な比較はできませんが、同じ晴海地区にあり、選手村マンションの隣にある築14年の中古マンションの価格を見てみると、80平方メートル台で9000万円を超えていました。
85平方メートル台の選手村マンションより1000万円ほど価格が安いことになり、多くの人が殺到するのもうなずけます。
販売担当者に直撃
なぜここまで安い価格で販売しているのでしょうか。
この選手村マンションの物件は三井不動産など大手ディベロッパー8社が販売しています。
その販売担当者に聞いてみると、まず理由として挙げたのが駅からの距離でした。選手村マンションは最寄り駅まで徒歩20分ほどかかるため、駅近の物件よりは価格を安く設定したといいます。
さらに、もう1つ挙げられた理由が「選手村マンションとしての事業の特殊性」でした。
販売担当者
「選手村として活用した大量の住戸を一定期間内に販売する必要がありましたが、これだけ多くの部屋を供給する開発はほとんど例がありません。市場価格に合わせて値上げをしても先々の需要の見通しがどうなるか不透明な中で、仮に需要が冷え込むと売れ残るリスクもありました。
またこの物件は、普通のマンションではなく元選手村です。大会後に人が住まず、廃墟のようになってしまうケースは他国でも見られる中で、選手村を東京大会のレガシーとして成功させることが重要で、売れ残りを出すわけにはいかないという思いもありました」
東京オリンピックはコロナ禍のなか、賛否あるなかで開催されました。その選手村を「負のレガシー」とすることはできないという販売会社側の考えがあることも知ることができました。
ただ、このマンションは選手村として都が所有した土地を民間の販売会社に売却する契約で、建てられたものです。そうした物件の特殊性に鑑みると、果たして市場価格と照らして販売価格が妥当なものなのか、これについてはもう少し取材が必要だと思っています。
さらに、もう1つ意外だったのは、このマンションを転売や投資目的で申し込む人たちがいたという点です。
応募者の1人で不動産会社で働く男性は、知り合いの不動産会社も「転売用」に複数の物件に申し込んでいると明かしたうえで、「これだけ人気なのは、不動産会社や外国人投資家が転売用で買い付けをしているからです。すでに市場価格と差があるので、引き渡しが終わった直後に売り抜いてその差を利益とします」とその狙いを教えてくれました。
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